2016年2月2日火曜日

160202朝日新聞:辛口キャスター、交代の春 本人の意思・数字…事情様々

http://digital.asahi.com/sp/articles/ASJ1X5KC3J1XUTIL02Q.html?rm=1225#Continuation

 NHK、テレビ朝日、TBSの看板報道番組の「顔」が、この春一斉に代わる。番組の一新、本人の意思など事情はそれぞれだが、政権への直言も目立った辛口キャスターがそろって退場していくことに、懸念の声が上がっている。
 3月末にリニューアルするTBS系の「NEWS23」は、メインキャスターの膳場貴子さん(40)が土曜夕方の「報道特集」に移り、新キャスターに星浩・朝日新聞特別編集委員(60)を起用し、放送時間も拡大する。岸井成格(しげただ)アンカー(71)も降板し、4月以降、同局専属のスペシャルコメンテーターになる。
 ジャーナリストの筑紫哲也さんのメインキャスター時代(89~07年)は2ケタ近い平均視聴率だったが、今年度は5・4%(以下、視聴率はいずれも関東地区、ビデオリサーチ調べ)。午後11時台は報道番組の激戦区で、「NEWS ZERO」(日本テレビ系)の2015年の月曜から木曜の平均視聴率は8・9%。昨年4月開始の「あしたのニュース&すぽると!」(フジテレビ系)は3・6%。「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京系)の昨年の年間平均視聴率は3・5%だ。TBSは陣容一新で報道番組の強化をはかる。
 テレビ朝日系の「報道ステーション」(月~金曜、午後9時54分)は、メインキャスターの古舘伊知郎さん(61)が契約終了に伴い3月末で降板する。
 昨年までの平均視聴率は13・2%と好調だったが、古舘さんは昨年末の会見で「(開始から)12年を一つの区切りとして辞めさせていただきたい」と話した。後任は同局の富川悠太アナウンサー(39)に決まった。久米宏さんがキャスターを務めた「ニュースステーション」から30年以上続く伝統の枠だが、関係者は「制作費を抑えたい考えもあり、当面は手堅く局アナでという判断になった。今後は状況を見極めながら進めていくことになるだろう」という。
 ある民放関係者は「高いギャラを払ってもいいと思わせるキャスターはなかなかいない。中途半端に外部の人を起用するぐらいならリスクの少ない局アナを使うのは当然。社内のモチベーションも上がる」と話す。
 一方、NHKは報道番組「クローズアップ現代」のキャスターを1993年から務めるフリーの国谷裕子(くにやひろこ)さんとの契約は更新せず、後任は局アナを軸に検討している。NHK関係者によると、現場は国谷さんの続投を強く求めたが、内容を一新するため局幹部が降板を決めたという。現在月~木曜の午後7時30分からの放送時間を、4月から午後10時に移す。NHK関係者は「国谷さんへの評価は高いが、番組の改編に合わせたキャスターの交代はつきもの」と話す。
 昨年9月、安保法案が参院特別委員会で可決されたことを、「私は強行採決だったと思います」とコメントした古舘さんなど、降板するのは辛口で知られたキャスターたち。三つの番組には最近、政権や自民党から報道内容に対する注文が相次いでいた。
 ログイン前の続き14年の衆院選前には、「NEWS23」に生出演した安倍晋三首相が、街頭インタビューの声に偏りがあると批判し、「報ステ」のアベノミクスの取り上げ方を自民党が文書で批判、「公平中立」を求めた。昨年4月には、「クロ現」と「報ステ」の内容をめぐって自民党が局幹部を事情聴取。「直接の原因ではなくても、それぞれが降板へ背中を押す一因になったのでは」と話す放送局関係者もいる。
■「降板の疑念を払拭する報道姿勢を」
 辛口キャスターの相次ぐ交代に、砂川浩慶・立教大准教授(メディア論)は「交代が重なったのは偶然の要素が大きく、それぞれの事情があると思うが、視聴者からみれば、政権に批判的なキャスターが外される、というイメージが拭えない。特に安倍政権はテレビ朝日とTBSに厳しかった。新キャスターには疑念を払拭(ふっしょく)する報道姿勢が求められる」と注文する。
 一方で、フリーから局アナに代わることについては、「社員という制約を超えて物申すことは難しいのでは」と懸念。「権力監視がメディア本来の役割。変更のない他局も含め、是々非々できちんと問題を指摘するキャスターがいないと、テレビは窒息してしまう」
 日本のニュースキャスターの走りとされるのは62年に始まった「ニュースコープ」(TBS系)の田英夫さん。NHKの磯村尚徳さんやテレビ朝日系「ニュースステーション」の久米宏さん、筑紫哲也さんら、取材経験豊富なジャーナリストや視聴者に親しみのあるフリーの著名人が多く起用され、各局の「顔」として活躍してきた。
 ジャーナリストの鳥越俊太郎さんは「キャスターに求められるのは、事実だけでなく、実はこんな意味があります、こんなつながりがあります、と自分の言葉で味付けすること。ネット上で自由に意見を言い合えるようになり、『キャスターに言われることはないよ』と思う人も増えただろうが、安保法制や憲法改正などで日本が大きく変わろうとしている今こそ、しっかりしたキャスターをすえた番組が必要だ」と指摘。
 「80年代後半以降のキャスター『第1世代』は高齢化が進み、今後は『第2世代』が必要。テレビ局は若手を起用して育てていかないといけない」とも話す。
 「NEWS23」のキャスターになる星氏は「権力をきちんと監視することがメディアの重要な役割。政治家の言っていることや政権が取り組んでいることの中身が妥当かどうか、有権者が判断できるように本質を伝えていく。私の意見も述べていきます」と話す。(滝沢卓、松沢奈々子、佐藤美鈴)

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