2017年1月21日土曜日

170120神奈川新聞〈時代の正体〉「共謀罪」が生む監視社会 海渡雄一弁護士が語る

〈時代の正体〉「共謀罪」が生む監視社会 海渡雄一弁護士が語る
公開:2017/01/20 21:56 更新:2017/01/20 23:48
神奈川新聞

http://www.kanaloco.jp/sp/article/226127


【時代の正体取材班=田崎 基】政府が今国会に提出予定の「共謀罪」(テロ等準備罪)を新設する改正法案について、その危険性や問題点を指摘する集会が20日、東京・千代田区の参議院議員会館で開かれた。「共謀罪の国会提出を許さない」と銘打った集会には満場となる300人余りが詰めかけ、民進党や社民党、共産党などの野党議員も駆け付けた。野党議員は「一強他弱の政治状況の中で法案が提出されれば、食い止めるのは難しい。『提出させない』という世論を盛り上げていきたい」と声を張り上げた。


 集会では共謀罪に詳しい海渡雄一弁護士が講演した。問題点や危険性を網羅した講演内容を詳報する。


共謀罪に詳しい海渡雄一弁護士=2017年1月20日、東京・千代田区の参議院議員会館



 まず、なぜ共謀罪がまずいのか。次に政府の説明について一つ一つ反論する。そして、なぜ「平成の治安維持法」と言えるのかについて話し、最後に、ではどうすればいいのかについて解説する。新たに法律を作らずに、(「4年以上の懲役・禁錮を定めている罪」を共謀罪の対象とするよう求めている)国連の越境組織犯罪防止条約を批准すればいいわけだが、その根拠についても説明する。

自由との境界 引き下げる悪法

 私たちがなぜ反対してきたのか。一言で言うと、刑法というのは「既遂処罰」を原則としていて、未遂を処罰するのは重大犯罪に限っている。そして最も重大な犯罪については予備や共謀も処罰している。

 日本の法体系の下で予備罪や共謀罪を処罰しているのは70程度の犯罪が既にある。テロ対策に必要な重大犯罪についてほぼ規定があると言っていい。例えば爆弾の製造、核物質の拡散、ハイジャックなどがこれに含まれる。

 共謀罪はそれ以外に600もの犯罪を対象にしようとしている。必要ないとしか言いようがない。


「共謀罪は監視社会を生み出す」と警鐘を鳴らす海渡雄一弁護士=2017年1月20日、東京・千代田区の参議院議員会館

 「犯罪の構成要件」とは、こういうことをやらない限り人間の行動は自由だ、という「自由との境界線」だ。共謀罪はこの境界線をぐっと引き下げることになる。

 「あなたたちは、こういう悪いことを考えたり、人と話したりしてはいけませんよ」と言われる社会になる。ここに共謀罪の根本的問題点がある。

 国家が市民の心の中に監視の目を光らせる社会になる。反対しなければならない第一の根拠はここにある。

「監視社会」の道開く

 もうひとつ、反対しなければならない理由は運用する際、どうやって捜査するのか、ということ。悪いことの話し合いが、どこでどのように行われるのか。

 捜査はまだ犯罪が起きていない段階で行われる。何もひどいことは起きていない、だが取り締まる。警察は「これが職務だ」と言い始める。すると、市民の会話やメール、携帯電話の通信を全部を監視しなければいけない、という話になる。検索をかけて悪いことを言っている人を探すようになる。


国連の越境組織犯罪防止条約(TOC条約)の批准は「現行法整備で十分」と解説する海渡雄一弁護士=2017年1月20日、東京・千代田区の参議院議員会館

 去年の国会で刑事訴訟法が改正され通信傍受の対象が極めて拡大された。傷害罪、窃盗罪、詐欺罪も盗聴の対象となった。それまでは組織的詐欺罪や薬物関連に限られていた。

 それが共謀罪の成立によってさらに拡大しろ、という話になる。本当に大変な監視社会への道を切り開くことになる。

「普通の人」の矛盾

 次に、政府の主張について、一つ一つ反論してみる。

 まず「普通の人を対象にすることはありません」という説明について。果たして今日ここに来ている人は「普通の人」でしょうか。

 「『一般人は対象ではない』という理屈は、法律ができれば必ず『対象になるような人は一般人ではない』という論理の逆転を生む」と指摘していた方がおられたが、まさにその通り。

 政府に歯向かうことや、自分の意思を表明するということが、日本の今の現状では普通の事ではないのかも知れない。僕らは普通だと思ってやっているが。

 問題は「組織犯罪集団の関与」を共謀罪の成立要件にしたというが、組織犯罪集団の定義とは「共同の目的」として「懲役4年以上の刑を定めている」600余りの罪を犯すことを目的にした団体としか決めていない。

 ということは、これは一種のトートロジー(同義語反復)だ。団体が罪を犯しました。それが組織犯罪集団ですということになる。もともと適法な団体であっても構わないという理屈だ。

 この点は沖縄で最近起きている弾圧を見ても分かる。政府にとって都合の悪いことをやろうとしている団体が摘発される。最初は先鋭した団体がやられるが、その後は次々にやられる。これが戦前の治安維持法の運用で行われたことだった。いまそうしたことが起きようとしている。


会場に300人余りが詰めかけた=2017年1月20日、東京・千代田区の参議院議員会館

 さらに政府は「準備行為を要件にしました。ですから共謀罪と呼ばないで下さい。テロ等準備罪です」と言い始めている。

 この点、準備行為は犯罪の構成要件にはなっていない。単なる処罰条件となっている。従って準備行為の内容は起訴状にも書かれない。準備行為がなくても逮捕できる。処罰する段階になって、何らかの「準備行為」があることを検察官が証明しろ、ということになっている。

 (既存の)予備罪や準備罪は、それ自体が危険な行為である必要がある。例えば殺人の場合であれば、ナイフのような凶器を準備する必要がある。ところが、今回の共謀罪の場合は殺人について誰かと合意して、なんらかの行為をすればいい。銀行でお金を下ろすとか、第三者に計画を話すとか、そうした準備行為で足りるとされている。

テロ防止の大うそ

 「テロ防止のために国際社会から求められている」との政府の姿勢も大うそが二つある。

 まず一つ目。(共謀罪を成立させなければ批准できないと政府が説明している)越境組織犯罪防止条約は、テロ対策と全く関係がない。

 この条約は、物質的経済的な目的がある組織犯罪集団、例えばマフィアや暴力団対策のための条約。その解説書に宗教的、イデオロギー的な目的に基づく犯罪行為を除外すると明確に書かれている。つまり条約の趣旨からテロを明確に除外している。

 したがって、政府の言う「テロ対策のために共謀罪を作る」というのは明確なまやかしと言える。

 二つ目。果たして日本のテロ対策は不十分なのか、という点だ。国連が作っているテロ対策に関する10余りの条約について日本は全てを批准している。国連が推奨している国内法におけるテロ対策の法整備を既に済ませていると言える。これをもって不十分だと、なぜ言えるのか。


「共謀罪に関する政府の説明には大うそが隠されている」と指摘する海渡雄一弁護士=2017年1月20日、東京・千代田区の参議院議員会館

 また「対象範囲の犯罪を減らしている」という報道がある。2003年時点では619個の犯罪だった。現在は676ある。それがここ数日後の報道で50減らすという。その内容は、業務上過失致死傷の共謀罪を省くなどという話。過失犯の共謀など論理的にあり得ないわけだが、そうした犯罪を対象としないことにした。当たり前のことに過ぎない。

 その後300にするという報道も出た。100余りにするという話もある。

 だが、私に言わせれば全て茶番だ。あるいは悪いデジャブ、まるで悪夢を見ているようだ。

 まず、2006年の段階で、当時の民主党と与党の最終修正案として、対象犯罪について「長期4年以上の懲役または禁錮の犯罪」を「長期5年の犯罪」に変えた。これで600余りの対象犯罪が300に減る。

 2007年には自民党内の小委員会案というのが作成されていて、そこでは140余りに減らした案がある。

 それを今回また再び、676という数字を国民の前に出し、それを減らしているという議論を見せている。こんな茶番があるだろうか。

「平成の治安維持法」

 だが言いたいのは、300でも140でもだめだ。
 ここで戦前の治安維持法の話をしたい。

 治安維持法は現在においては「希代の悪法」だったという評価が定まっているとは思う。ところが、法律が制定されるとき政府は、「日本の天皇制の変革を主張するような極端な団体にだけ適用する、という完全な治安法であって、乱用される恐れは一切ない」と言ってきた。また、国会での答弁でも「純真な民を傷つけることはしない」と言っている。

 いまの政府とまさしく同じではないか。

「共謀罪は平成の治安維持、いやそれ以上に危険」とし、詳しく解説する海渡雄一弁護士=2017年1月20日、東京・千代田区の参議院議員会館

 当時も、非常に要件が絞られ、乱用の恐れのない法律だと言ってきた。治安維持法のときには「犯罪集団の目的」とは「国体変革」と「私有財産の否認」の二つしかなかった。たった二つしかなかったのに際限なく乱用された。

 いま共謀罪は、676を超える犯罪を対象としようとしている。これが300に減らした、140に減らした、だから良かった、という話になるか。だめなものはだめとしか言いようがない。

 歴史を振り返ると、まさに治安維持法のときと酷似する状況がある。

適用拡大の歴史

 ではその治安維持法は、どのように適用が拡大していったか。

 最初は日本共産党が摘発された。そしてその周辺にある労働組合や学術団体がやられた。その次には合法的な団体、1930年代半ば以降には大本教、創価学会、天理教、そしてキリスト教のいくつかの宗派が摘発されていった。さらには研究者や学者、雑誌編集者が組織犯罪集団とされた。国の組織、部署さえも怪しいとされ、適用された。

 限りなく乱用されたこの法律の本質とはなんだったのか。それは「体制に抵抗する団体を一網打尽に弾圧できる」ということだったといえる。

 今回の共謀罪もまた、同じ効果をもたらす恐れが高い。沖縄での弾圧をみれば、例えば基地建設反対運動を応援している人は、組織的な威力妨害罪を共謀しているなどとされかねない。

「五輪のため」と強弁

 いままでの共謀罪法案と、今回出されようとしている法案はある意味中身は変わらない。しかし、危険性は増したと思う。その法律を使おうとしている人が変わったからだ。

 いままでは適用する予定のない法律だったかもしれない。しかし安倍政権は「東京五輪のために絶対必要不可欠だ」などと言い始めている。現実に適用しようとしている。


 2003年時点では政府はなんと言っていたか。「条約批准のためにやむなく作るものでして、一切適用する予定はございません」と言っていた。

 その後13年を経て既に拡張適用されてしまっている。法律ができる前に適用対象が拡大するケースなどかつてあっただろうか。本当に恐ろしいことが起きている。

 「平成の治安維持法だ」と指摘すると反論を受けることがある。だが、まさしく「共謀罪」は「平成の治安維持法」以上に恐ろしい法律に化ける可能性がある。

「絶対に提出許すな」

 既に187カ国が批准している「越境組織犯罪条約」には日本も批准した方がいいと思っている。

 いま問題になっている条約5条というのは、重大犯罪についての「共謀」あるいは、組織的犯罪集団への「参加」を犯罪化することを締結国に求める条項で、当時、日本は「参加」について修正案を提出している。つまり(条約ができる)当時は共謀罪についての法律を作るつもりはなかったのではないか。

なぜ「共謀罪」に政府がこだわるのか。その理由について推測を明かす海渡雄一弁護士=2017年1月20日、東京・千代田区の参議院議員会館

 それがどこでおかしくなったのか。ここからは推測だが、日本政府と米国政府が密談して、共謀罪を法整備することにしたのではないか。

 少なくとも、国連との関係でいえば、日本の組織犯罪対策は米国から何かしら指摘を受けるようなことはない。米国は銃やナイフを持てる国。日本はそんな国とは違う。文句があるなら言ってみろ、と言って批准すればいい。

 世界の国々をみると、(批准するために)日本が目指しているような一般的な共謀罪を作った国はブルガリアとノルウェーだけ。日本には、重大犯罪の予備段階を処罰する別の犯罪を数多く既に規定している。現行の法制度で国連が組織犯罪を防止する上で欠けている部分はない。そう言って批准し、この問題を終わらせることができる。

 なぜそうしないのか。それは政府が共謀罪を「使うための法律」「政府に歯向かう団体を根絶やしにするために使う法律」として成立させようとしていると考えざるを得ない。

 この共謀罪、国会提出を絶対に許してはならない。




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