2016年12月31日土曜日

161231中日春秋

 <冬の夜思い出せないことみっつ>は、永六輔さんの句。何か大切なことを忘れているような気もする大みそか。ことし逝去した方々の言葉を思い出しつつ、申(さる)年を送る

▼七月七日に八十三歳で逝った永さんは、パーキンソン病を患っていた。その症状で歩くときに前傾姿勢になってしまうため、リハビリに通った。そこで外国人の介護士さんに、こう言われたという

▼「背筋を伸ばして首を引いて、重心が前にいかないように。ちょっと上を向いて歩きましょう」「永さん、日本にはいい歌があります。知ってますか?」。永さんは、自らが作詞した「上を向いて歩こう」に合わせながら、リハビリに励んだそうだ

▼そんな逸話を綴(つづ)った『大晩年』で、永さんは<往生というのは、往(い)って生きる、という意味>だと説いている。死ぬこととは、先に向こうに往って生きている仲間たちと再会しに往くことだから、楽しみなのだと。ちょっと上を向いて、歩いていったろうか

▼八月二十一日に百一歳で大往生した硬骨のジャーナリスト・むのたけじさんの『99歳一日一言』は、三百六十五の滋味あふれる警句集。十二月二十九日の言葉は<一生を結ぶ最期に何を言う。生かし続けて来てくれた一切への「ありがとうございました」が最もふさわしくないか>

▼一年を結ぶ言葉として「ありがとうございました」。どうぞ良いお年を。

http://www.chunichi.co.jp/article/column/syunju/CK2016123102000089.html

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