朝日新聞 2016年11月23日
http://digital.asahi.com/sp/articles/DA3S12671539.html?rm=150
写真は宇都宮けんじさんtwitterから
宇都宮けんじ @utsunomiyakenji
今日の朝日新聞のコラムで、ピケティは「世界が、今回の米大統領選の結果から学ぶべき最大の教訓は、一刻も早くグローバリゼーションの方向性を根本的に変えることだ。今ここにある最大の脅威は、格差の拡大と地球温暖化だ」と訴えています。
https://mobile.twitter.com/utsunomiyakenji/status/801319760541741056
志位和夫 @shiikazuo
今日の「朝日」でのピケティのコラムはとても共感します。
「トランプが勝った要因は、経済格差の爆発的拡大だ。一刻も早くグローバリゼーションの方向性を根本的に変えよう。今そこにある最大の脅威―格差の拡大と地球温暖化を迎え撃ち、公正で持続可能な発展モデルを打ち立てる国際協定の実現を」
https://mobile.twitter.com/shiikazuo/status/801300046797012992
まずはっきりさせておこう。ドナルド・トランプ氏が勝った要因は、何をおいても経済格差と地域格差が爆発的に拡大したことにある。何十年も前から米国で進むこの事態に、歴代の政権はしっかり対処してこなかった。市場を自由化、神聖化する動きはレーガン政権で始まり、ブッシュ親子に引き継がれた。クリントン政権、そしログイン前の続きてオバマ政権も、ともすればこの流れに身を任せることしかできなかった。それどころか、クリントン政権下の金融と貿易の規制緩和は、事態を悪化させる結果となった。
さらに、金融業界との親密ぶりでヒラリー・クリントン氏に向けられた疑惑のまなざし、民主党とメディアのエリートたちの無能ぶりがダメ押しとなった。民主党執行部は予備選でバーニー・サンダース氏に投じられた票から教訓を引き出せなかった。本選の得票数はクリントン氏が辛うじて上回っている(有権者約2億4千万人に対し、クリントン氏6231万票、トランプ氏6116万票=11月15日現在)。しかし最若年層と低所得層の投票率が低すぎ、勝敗を左右する州を制するに至らなかった。
何より悲惨なのは、トランプ氏の政策によって、不平等が生じる傾向がひたすら強まることだ。現政権が苦労して低所得層にあてがったオバマケア(皆保険制度)を廃止し、企業の利益にかかる連邦法人税率を35%から15%に引き下げるという。米国はこれまで、欧州で始まった、企業を国内につなぎ留めるための際限なき減税合戦に持ちこたえてきたのに、財政上のダンピングに巻き込もうとしているのだ。
米国内の政治的対立はいよいよ民族問題の色を濃くし、新たな妥協点が見いだされない限り未来は見通せなくなっている。多数派である白人の6割がある政党(共和党)に投票し、黒人やヒスパニックといった少数派の7割超が別の党(民主党)を支持する構造の国なのだ。しかも、多数派の数的優位は失われつつある。2000年に投票総数の8割を占めていた白人は今回7割、2040年までに5割になる見通しだ。
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欧州が、そして世界が、今回の米大統領選の結果から学ぶべき最大の教訓は明らかだろう。一刻も早く、グローバリゼーションの方向性を根本的に変えることだ。今そこにある最大の脅威は、格差の増大と地球温暖化である。この二つを迎え撃ち、公正で持続可能な発展モデルを打ち立てる国際協定を実現しなければならない。こうした新たな形の合意でも、必要なら貿易促進につながる措置をとることはできる。ただこれまでのように、取り決めの中心が貿易自由化であってはならない。貿易は本来あるべき姿、つまりより高次の目的を達成するための手段でなければいけない。
関税その他の通商障壁を軽減するような国際合意は、もうやめにしないか。法人減税などによる財政ダンピングや、環境基準を甘くして生産コストを下げる環境ダンピングに対抗すべく、強制力のある数値規定をあらかじめ協定に盛り込んでおくべきだ。例えば法人税率の下限や、罰則を伴う二酸化炭素(CO2)排出量の確固たる目標値を定めよう。なんの対価もない貿易自由化交渉など、もはやあってはならない。
この観点からは、10月末に調印された欧州連合(EU)とカナダの包括的経済・貿易協定(CETA)は時代遅れで、破棄すべきだ。内容が貿易に限られ、財政面でも環境面でも拘束力を伴った方策はない。そのくせ「投資家の保護」のためにはあらゆる手立てが講じられ、多国籍企業は国家を民間の仲裁機関に訴えられるようになる。開かれた公の法廷を回避できるわけだ。
中でも調停員の報酬という重大な問題はこのままでは制御不能となろう。法的手続きにおける米国の帝国主義がますます強まり、米国のルールと義務を欧州企業に押しつけることになる。このタイミングで司法を弱体化させるなど常軌を逸している。優先すべきはその逆で、強力な公的機関を立ち上げ、その決定を守らせる力を持つ欧州検察庁のような組織を創設することだ。
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地球温暖化をめぐるパリ協定の締結で、平均気温の上昇を1.5度未満に抑えるという建前的な目標に署名したことにどれほどの意味があろう。これでは土壌中の温室効果ガスは放置される。例えば、カナダはアルバータ州のオイルサンド採掘を再開したところだが、石油を抽出する過程で温室効果ガスが放出される。カナダはパリ協定に署名した数カ月後に貿易協定(CETA)を結んだが、温暖化対策にまったく触れない協定に意味はない。カナダと欧州が、バランスのとれた、公正で持続可能な発展に基づくパートナーシップを推進すると言うなら、双方のCO2削減目標と、達成する具体策をはっきりさせるべきだ。
EUは、共通の財政政策を持たない自由貿易圏として作り上げられており、財政ダンピングへの対処と、法人税率の下限設定は、パラダイムの完全な転換になるだろう。しかしこの変化は避けて通れない。課税については若干前進しているが、課税の共通基盤に合意できても、各国がゼロに等しい法人税率であらゆる企業の本社を誘致するのなら、合意の意味はないに等しい。
今こそ、グローバリゼーションの議論を政治が変えるべき時なのだ。貿易は善であろう。しかし、公正で持続可能な発展のためには、公共事業や社会基盤、教育や医療の制度もまた必要なので、公正な税制が欠かせない。それなしでは、トランピズム(トランプ主義)がいたるところで勝利するだろう。
(〈C〉Le Monde,2016)
(仏ルモンド紙、2016年11月13-14日付、抄訳)
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Thomas Piketty 1971年生まれ。パリ経済学校教授。「21世紀の資本」が世界的ベストセラーに
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