2017年1月12日木曜日

オバマ大統領が最後に訴えた民主主義への四つの脅威


オバマ大統領が最後に訴えた民主主義への四つの脅威 一つはバブル?

「バブルがますます居心地のいいものになり、自らの意見に合う情報だけを受け入れるようになる。それが事実であろうと、なかろうと」

オバマ大統領は1月10日夜(現地時間)、大統領として最後の演説をした。政治活動を始めたシカゴでのスピーチ。在任8年間を締めくくる言葉はこれ、だった。「イエス・ウィー・キャン」

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AFP=時事

大歓声で迎えられたオバマ大統領。「テレビ中継があるから始めなきゃならないんだよ」と冗談を飛ばすほど、拍手は鳴り止まなかった。
50分ほどの演説は「アメリカ国民から学び、大統領として、人間として成長できた」と感謝の気持ちを示して、切り出した。
シカゴにやってきた20代初めを振り返ったオバマ氏。「まだ自分は何者か、人生の目的を探していた」ものの、「この街で、信じることの力を、困難にある労働者たちの静かな威厳を知った」という。
「もうあと4年!」。ここで沸き起こった観衆からのコール。「それはできないよ」とオバマ大統領は笑った。

オバマの民主主義

「ここで学んだ。普通の人たちが参加し、力を合わせてこそ、変化は起こせると。ともにそれを求めれば」
「大統領としての8年の後、今もそう信じる。これは私だけの信念ではないだろう。アメリカの理想の核にあるものだ。自己統治という大胆な実験だ」
オバマ氏らしい民主主義をめぐる格調高い主張が続く。ときにそれは「大学教授のようで現実味を欠く」と揶揄されてきた。それでも、アメリカの根本思想を強く訴える。
「みなが平等につくられたという信念。自由や幸福の希求といった剥奪不可能な権利を創造主から授けられた」
「これらは明白ながらも、自動的にもたらされるものではない。われわれ国民は、民主主義という制度を通じて、より完璧な国を作ることができる」
「なんと根本的な考え方だろう。建国者たちからの偉大な贈り物。汗、困難や創造力を通じて、個人の夢を追う自由。そして、ともに努力し、共通の幸福、より偉大な幸福を達成する責務」
アメリカ建国から240年。西部を開拓し、奴隷を解放し、移民を受け入れ、女性参政権を付与してきた。完璧な歴史だったわけではない。だが、アメリカを別格にするのは「変化し、次世代の生活をより良いものにする能力」だった。

在任8年のチェンジ

オバマ氏は8年間で何を達成したのだろう。オバマ氏が挙げたのは、経済や外交での成果だった。
国内経済では、景気後退から抜け、雇用を生んだ。外交では、キューバとの国交正常化を進め、イランの核開発プログラム中止にこぎつけ、オサマビン・ラディン容疑者を追い詰めた。同性婚を認め、2千万人にオバマケアを解放した。
「みなさんがもたらしたチェンジだ。私たちが取り掛かったときに比べ、アメリカはよりよく、より強い場所となった」

次期大統領

1月20日、トランプ次期大統領が誕生する。オバマ氏が「10日後、民主主義の証を目撃することになる」と切り出すと、会場からはブーイング。だが、大統領は「ノー、ノー、ノー」と遮った。
「自由に選ばれた大統領から次の大統領への平和な権力移譲だ」
民主主義の根幹をこう指摘すると、国として「共通の目的意識を取り戻す」ことが必要だと注意を促した。そして、今夜の演説の主題は「民主主義」だと改めて強調した。
「民主主義に必要なのは、均質性ではない。建国者たちは議論し、口論し、最終的には妥協した。われわれにも同じことが求められている。民主主義には基本的な団結心が必要だ。違いを乗り越え、立つときも倒れるときも、一つという考え方だ」

民主主義への四つの脅威①格差問題

アメリカの団結と民主主義。それを脅かす脅威は四つあると大統領。まず挙げたのは、格差問題だった。「みなが経済的機会に恵まれているという意識なしに、民主主義は機能しない」
上位の富裕層に富が集まり、中間層が取り残されるーー。これは民主主義を溶解する。「ゲームが公正でない、政府は力を持つ者だけの味方だ、という風潮が広まれば、冷笑主義や政治の二極化が広がる」。
従って、オバマ氏が示す処方箋はこうだ。
中間層が伝統的に携わってきた仕事が機械に置き換わるとき、新しい教育が必要となる。賃上げのため組合活動する権利を労働者に授けなければならない。セーフティーネットを整備しなければならない。企業が応分の税負担をするようにしなければならない。

②人種問題

オバマ氏が、民主主義への2番目の脅威として挙げたのは、人種問題だった。アメリカ初の黒人大統領が誕生して、アメリカの人種問題は終わったと認識するのは「決して現実的ではなかった」と大統領。
「人種はこの社会で、強大で、分断的な力であり続けている」
なかでも増加が著しいメキシコ系移民。「自分たちと外見が違うというだけで、移民の子どもたちへの投資を怠れば、自分たちの子どもたちの将来にも影を落とすだろう。なぜなら、(肌が)ブラウンの子どもたちはアメリカの労働人口のより多くを占めるようになるからだ」
雇用、住居、教育、司法における人種差別を禁じる法を堅持しなければならないとしつつ、差別解消には法律だけでは不十分だと強調した。
「考え方が変わらなければならない。だが、それは一夜にして変わるようなものではない。数世代かかって、社会的な態度は変わるものだ」
多様性を増すアメリカ社会。いまこそ耳を傾けるべき言葉として、昨年2月に亡くなったハーパー・リーの小説「アラバマ物語」に登場するアティカス・フィンチの言葉を挙げた。
「相手の視点で、物事を考えてみなければ、その人物のことを決して理解することはできない。その体に成り代わってみて、歩いてみるまでは」
オバマ氏は、黒人やマイノリティーの人たちに対して、難民、貧困層や性的少数者、さらには経済的な困難にある白人男性らにも思いを致すように呼びかけた。
反対に白人に対しては、マイノリティーが直面する差別を認識するように促した。アメリカ生まれの市民には、移民たちによってアメリカが強固な国になったことを思い出すように呼びかけた。
「注意を振り向け、耳を傾けなければならない」

③心地よいバブルという脅威

社会の分断に揺れるアメリカ。こうしてオバマ大統領は、お互いの立場を理解する努力を強調せざるを得なかった。
「これは容易いことではない。多くの人たちにとって、バブルに閉じこもる方が安心だろう。自らの地域、大学のキャンパス、信仰の場所、特にソーシャルメディアのフィード。そこでは似たような人たちに囲まれ、政治観念を共有し、考えを決して脅やかされない」
「バブルがますます居心地のいいものになり、自らの意見に合う情報だけを受け入れるようになる。それが事実であろうと、なかろうと」
大統領選で、問題が顕在化したフィルターバブル。「ポスト事実」が流行語となったように、有権者は事実かどうかではなく、耳障りのよい情報だけを盲信した。それは社会の分断と、政治の二極化にもつながった。
「これは民主主義への三つ目の脅威だ」。こうした流れにオバマ氏は警鐘を鳴らした。

理性を

「政治とは思想を戦わせることだ。民主主義はそう設計された。健全な議論を通じて、異なる目標や、それを達成する手段に、優先順位をつける。だが、事実に関する共通のベースラインなくして、話が噛み合うことはない。新しい情報を受け入れ、敵対する人たちの言い分も正しいかもしれないとか、科学や理性が重要だとか考えることなくして、話が噛み合うことはない」
ここで例に挙げたのが、地球温暖化だった。
温暖化はすでにその真偽を議論する段階ではなく、効果的な対策を打ち出さねば、「将来世代に禍根を残すだけでなく、建国から続くイノベーションと現実的な問題解決という根幹の精神を裏切ることになる」
アメリカの精神。それは「啓蒙の精神に端を発し、アメリカを世界の経済大国に押し上げた」。
「理性や進取の気性を信じ、権力より権利を尊重し、世界大恐慌時もファシズムや独裁制の誘いに乗らなかった。他の民主国家とともに、第二次世界大戦後の秩序を形成した」。それは「原理、法の支配、人権、宗教・言論・結社の自由、そして独立した報道機関の上に成り立つ秩序だ」。

秩序への挑戦

「こうした秩序はいま、挑戦されている。まずイスラムを名乗る暴力的な狂信者たちによって。より最近では、開かれた民主主義と市民社会における自由市場は、自らの権力への脅威とみなす独裁的な支配者たちによって」
過激思想や専制国家の広まりは、アメリカの存在価値への挑戦——。オバマ氏の描いた世界の構図だ。アメリカはどう立ち向かうのか。
「民主主義は、恐怖に負けたときに、崩れる。だからこそ、われわれは市民として、外部からの攻撃を警戒するように、われわれをわれわれ足らしめている価値観が弱ることにも警戒しなければならない」
「もし世界で、自由の範囲や法の支配の尊重が制限されるようなことがあれば、国内でも国家間でも争いの可能性が高まり、われわれ自身の自由もやがて脅かされるだろう」
「だからこそ、警戒しよう。だが恐れてはならない。イスラム国は無実の人々を殺そうとするだろうが、アメリカを倒すことはできない。われわれが憲法や、戦いにおける原理を捨てることがなければ」
「ロシアや中国のようなライバルが、世界におけるわれわれのような影響力を得ることはない。われわれが拠って立つところを捨てなければ」

④惰性という脅威 民主主義の不断の努力

「民主主義は、当たり前のものだと思ったときに、脅かされる。党派に関係なく、われわれはみな、民主的な制度を立て直す仕事に邁進するべきだ」
オバマ氏が最後のポイントとして挙げたのは、不断の努力なしに民主主義は成り立たないという根本だった。
「すべては、われわれが参加するかにかかっている。市民としての責務を受け入れるかに」
「憲法はとても素晴らしいギフトだが、紙切れにすぎない。それだけでは何の力もない。われわれ人民が、力を持たせるのだ。われわれ人民が、意味を与えるのだ。参加することによって。選択することによって。協力関係を築くことによって」
「自由のために立ち上がるのか。法の支配を尊重し、実行するのか。われわれ次第だ。アメリカは強固だが、自由を求める長い旅から得られた果実は保証されてはいない」

行動を

そして政治を冷笑せず、変化を起こすには自ら行動を起こすように説いた。
「民主主義はあなたたちを必要とする。選挙のときだけじゃない。自らの限られた利益が問題になっているときだけじゃない。生涯を通じてだ。ネットで見知らぬ人と議論することに飽きたなら、現実の世界で人と話して」
「直さなければならないことがあれば、靴紐を締め、組織を立ち上げて。政治家に失望したなら、クリップボードを手に取り、署名を集め、自ら立候補して」
「参加して。身を投じて。注意深くいて」

感謝と涙

演説も終盤。大統領は不意に涙を見せる。職務を支えた家族や仲間への感謝の気持ちを述べ、ミシェル夫人に話が及んだときだった。
「この25年、妻や母親であるだけでなく、親友でもあった。頼んでいないような役割も果たしてくれた。しかも、優雅さと気概と品性とユーモアを持って」

AFP=時事

選挙ボランティアや若者たち聴衆に向けては、こんなメッセージを送った。
「あなたたちは世界を変えてくれた。そうだとも。だからこそ、われわれが取り掛かったときよりも、我が国に対して楽観的な思いを抱いて、今夜この舞台を去れる」
「多くのアメリカ国民を助けただけではない。特に若者たちを始め、多くのアメリカ国民を鼓舞し、違いを残せると希望を持たせ、大志を抱かせた」
「自己の利益を顧みず、利他的で、クリエイティブで、愛国的な若い世代。国のあちこちで目にしてきた。あなたたちは、公正で、正しく、包摂的なアメリカを信じている。変化し続けることがアメリカの証であると知っている」
「こうした民主主義の困難な仕事に携わりつづける意志を持っている。その数は増え続け、だからこそ、将来は善き人々の手にあると信じるのだ」

「イエス・ウィー・キャン」

演説の締めくくり。オバマ氏は「大統領として最後の頼み」を訴えた。
「8年前、私に賭けてみてくれたときに、お願いしたことと同じだ。信じてほしい。私が変化を起こす能力ではない。あなたたち自身のだ」
「建国の文章に記された信念を守り続けてほしい。奴隷たちや奴隷制廃止論者たちがささやいた思想。移民や入植者や正義のために行進した者たちが唄った精神。海外の戦場から月面まで、国旗を立てた者たちによって再確認された信条。これからストーリーが記されるであろう全てのアメリカ国民のコアにある信条」
そうだとも、我々にはできる。イエス・ウィー・キャン(Yes, we can.)
そうだとも、我々はそう成し遂げてきた。イエス・ウィー・ディッド(Yes, we did.)
イエス・ウィー・キャン(Yes, we can.)

AFP=時事
バズフィード・ジャパン ニュース記者
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