2016年3月17日木曜日

160314THE 放射能 人間vs.放射線 科学はどこまで迫れるか?


http://d.hatena.ne.jp/discussao/touch/20160314
2016-03-14「NNNドキュメント/THE放射能」Add Star
NNNドキュメント'163・11大震災シリーズ(71)THE 放射能 人間vs.放射線 科学はどこまで迫れるか?」
(3月14日)
個人的メモとして書き起こし(完全収録)。
こちらは内田さん作成のtogetterによる実況まとめ。

  • イントロダクション
ナレーション(nona):放射能は怖くない、そう教えられれていました。第2次大戦後、アメリカは爆心地の近くで、人間はどこまで戦えるのか人体実験していたのです。その数25万とも言われるアトミック・ソルジャー。アメリカ政府が責任を認め、兵士たちに賠償するまで40年かかりました。また、チェルノブイリ原発事故で多発した子供たちの甲状腺癌が放射能が原因だと認められるまで、20年の歳月がかかりました。5年前に起きた東電福島第1事故。100mSv以下の低線量被曝を受けた作業員たちも病魔に襲われています。
Aさん(被曝線量50mSv):一番悪くなったのは、そうですね…腎臓、心臓、臓ってつくものに対しては全部…。あの作業は結局、意味ある被曝なのかね?
Bさん(被曝線量56mSv):甲状腺胃カメラ大腸検査と…胃は…全摘になっちゃったですよね。あれだけ悲惨なところへ、命がけで行ったのに、どこも強制(?)を知らないみたいな
Cさん(被曝線量19.2mSv):検査したら急性骨髄性白血病ちゅうの、その時に診断がでたんですよ。骨髄の中の70%以上は、もう癌細胞が溢れている、で、このまま放置したら確実に死にますって言われたんですよ。
ナレーション(nona):原因は被曝によるものという訴えが聞き届けられるまでに、この先どれほどの歳月がかかるのでしょうか?
司会:原発で働く放射線業務従事者の数はおよそ7万人。こうした作業員のみなさんがいなければ、日本の原発は動きません。ご紹介した3人は、原発での作業による被曝によって体が蝕まれたと訴えています。ところで福島第1原発事故以来よく聞かれるようになったベクレル(㏃)。このベクレルという単位には、いったいどんな意味があるのでしょうか?1㏃は1秒間に1本の放射線を出す放射能の単位です。
ナレーション(nona):放射線は音もなく匂いもなく目にも見えません。しかし霧に満たされた箱・霧箱を使うと、放射線の軌跡を見ることができます。目に見える放射線の姿は…
司会:例えば、食品の上限である1kgあたり99㏃の食べ物を1kg食べると、私の体を1秒間に99本の放射線が貫きます。
ナレーション(nona):放射線は1分間におよそ6千本、1日で855万本、体内に取り込まれたセシウム生物学半減期は大人でおよそ70日、その間にガンマ線細胞DNAに傷をつけます。また、アルファ線ベータ線内部被曝でより強烈な影響を与えるのです。
  • タイトル[THE 放射能 人間vs.放射能 科学はどこまで迫れるか?]
司会:福島第1原発では90万テラ㏃という、気の遠くなるような量の放射能が環境中に放出されました。
ナレーション(nona):茅野博士(SPEEDIの生みの親・茅野政道工学博士)によると、放射能は、広く東日本を覆いました。
茅野政道:この画面(WSPEEDIによるシミュレーション)は東日本。まず、3月12日から本格的な放出が始まったんですが、午後に北東方向に流れてですね…
ナレーション(nona):陸側におよそ3割。7割が海側に流れました。14日夜に南へと向きを変え、関東に到達したプルームは一転北上、福島中通りを縦断し汚染します。その後20日未明に南に流れたプルームはふたたび関東へ。そこから大きく2周して関東を襲います。折からの雨によって、千葉県北部などにホットスポットができたのです(21日昼)。注目すべきが、3月15日に東京を襲った放射性プルーム。東京台東区で採取した空気中の塵を独自に分析していたのは、京都大学原子炉実験所の小出裕章さん(元助教)です。
小出裕章:私は長い間、環境中の放射性物質というものを測ってきましたし、チェルノブイリ原子力発電所の事故の時も原子炉実験場で測定をしたことがありました。8千km離れたチェルノブイリから高濃度放射性物質が飛んできて驚いたのですけれども、それに比べてもはるかに高い濃度の放射性物質東京台東区で検出されたということで…。測定したこれまでの経験からすれば、猛烈に高かったんです。私自身は当時計算を間違えていて、約50倍ほど過大評価していたのです。これ(都立産業技術研究センターの測定結果)に載っているものに近い。私は本当にびっくりして、「こんな中で人々は生きていたんだ…」というふうに思いました。
ナレーション(nona):一方、小出氏の計測した台東区蔵前から西へおよそ20km、世田谷区にある駒沢オリンピック公園近くでもう一つの観測が行われていました。あの日駒沢周辺で放射能を測定していたのは、東京都立産業技術研究センターです。ガラス繊維のフィルターを集塵機に取りつけ、空気を取り込み、塵を集め、測定器で測ります。
櫻井昇(バイオ応用技術グループ長):(Q:3月11日以降の進展は?)13、14では放射性物質は全然検出されなくて、いわゆる平常状態だったんですけども、15日になってから値が上がり始めたというのが分かりましたので、急遽1時間間隔の測定に変えたりというような形で測定体制を取っていきました。こういった事故みたいな場合ですと、大体出てくる核種がまず決まってるんですね。ヨウ素131、132、セシウム134、137…と思います。
永川栄泰(バイオ応用技術グループ研究員):普段検出されない核種が出ているっていうところが、まぁやはりその福島原発由来であろうということは、それは間違いないです。
ナレーション(nona):例えばセシウム134は原発事故でしか出ない核種です。他にも聞き慣れない放射性物質が…、テルルテクネチウム、銀の放射性同位体。吸入摂取量とは、肺に入った放射能の量のこと。ピークだった午前10時に、合計1100㏃、屋外にいた人は1時間に1100㏃を吸い込んだということになります。その日プルームが最も南に下がった時、私たちはどれくらいの放射能を吸い込んだのか?
小出裕章:高いところであれば、空気中に漂っていた放射性物質を吸い込んだだけで管理区域の基準をはるかに超えたということになっていたはずだと思います。ごくごく普通の東京、そしてそこに住んでいる人々が、普段ではあり得ないような被曝をしたということだったと…。問題は、ヨウ素というのは、実はガラス繊維のフィルターにつかずに、それを通り抜けてしまう成分というのがあるということが昔から分かっていまして…。ガラス繊維にくっつくヨウ素の5倍ぐらいのヨウ素は、実はフィルターを突き抜けてしまっていて、福島第1原子力発電所の事故の時に、実はそれを私はやっていない。私が公表したデータの5倍ぐらいの汚染は空気中にあった。
司会:事故直後の3月15日、東京でもヨウ素131とともにテルル132という聞き慣れない物質が大量に検出されました。テルル132の半減期は3日。ベータ線を出し、さらにガンマ線を出してヨウ素132に改変します。こうした放射性のヨウ素が体内に大量に取り込まれますと、甲状腺癌の原因になると言われています。では、人間が放射線を浴びると、いったいどうなるのでしょうか?人間の細胞には、傷ついたときに修復する機能があります。細胞内の酵素が働き、傷ついた部分を取除き遺伝情報を修復するのです。ところが修復に失敗すると、間違った遺伝情報が引き継がれ癌に変化する引き金になってしまうのです。
ナレーション(nona):ヨウ素が取り込まれる経路は、食べ物と呼吸のふたつ。今回国は牛乳などに摂取制限をかけたことから、食べ物からの摂取は少なかったと思われます。震災後、北海道から福島へ何度も駆けつけた医師がいます。放射線治療が専門の西尾医師(西尾正道・北海道がんセンター名誉院長)は、内部被曝の危険性を訴え続けています。
西尾正道:僕ね、3万人くらい放射線かけたでしょ。発癌になった人はね、8割は小線源治療なんです。
ナレーション(nona):小線源治療とは、癌に線源を埋め込み放射線で癌を殺す治療法。まさに内部被曝の原理です。
西尾正道:内部被曝がすごくべったりくっついてその近傍にだけあたるわけだから。だから影響が大きいんです。
ナレーション(nona):ヨウ素ガンマ線とともにだすベータ線は、体内では2ミリほどしか飛びません。狭い範囲を集中的に被曝させます。西尾医師は、内部被曝こそ放射線の影響の核心だと主張します。

ナレーション(nona):2011年原発爆発直後、マニュアルで定められた放射能の測定がきちんと行われてませんでした。
小出裕章福島第1原子力発電所では、もちろん、爆発をして測定器が壊れてしまったり、停電して動かなかったり、周辺のモニタリング・ポストもそうですし、ほとんどまともな測定ができないという状態がずっと続いていた。事故の経過で、どれだけの放射性物質が放出されて、そして周辺の人々がどれだけの被曝をしているということがほとんど分からないという状態のまま動いていました。
ナレーション(nona):事故初動での放射能測定がきちんと行われなかったことが、その後の事態を複雑にしました。すべては推定によるしかなくなったのです。
司会:事故後、福島県では小児甲状腺癌多発の懸念を払拭するため検診が実施されています(福島県による「県民健康調査」)。1巡目の先行検査と2巡目の本格検査を合せると、これまでに甲状腺癌と確定した人が116人、疑いのある者が50人となっています。この数字を巡って、専門家の間では大きく意見が割れています。
ナレーション(nona):小児甲状腺癌の増加は、はたして事故の影響なのか?専門家の意見は大きく分かれます。福島県検討委員会は…。
北斗(県民健康調査・検討委員会座長):「がんにつきましては、放射線の影響は考えにくい」という見解を、このまま委員会としては継続します。
ナレーション(nona):一方、放射能が原因と主張する研究者も少なくありません。岡山大学疫学専門家津田教授。論文が発表されると、海外でも大きな反響を呼びました。
津田敏秀(岡山大学大学院環境学研究科教授):甲状腺癌というのは、えー、ほとんど起こりませんので、放射線被曝のない状態では、子供においては。そうしますと、甲状腺癌症例の分布自体が被曝線量を表しているというふうにも言えるわけですね。例えば今回の甲状腺癌なんて、20倍から50倍という数字を私は論文で算出しておりますけれど、例えば50倍でしたら、1が50になるわけですから、50人甲状腺患者が出たら49人被曝の影響なんです。大部分が放射線による影響であると言っても間違いないわけですね。
ナレーション(nona):この論文には賛否両方の反響が寄せられ、疫学の国際学会が日本政府に更なる調査を求める展開となっています。では、最新の遺伝子科学の技術を駆使して、甲状腺癌急増の原因を突き止めることができないのでしょうか?放射性物質を利用したアイソトープ医療エキスパート東京大学の児玉教授は…。
児玉龍彦東京大学アイソトープ総合センター長):この2本鎖が切られてしまう、二本鎖切断という…(放射線量が高い→DNAの2本の鎖が切られる)。チェルノブイリで二本鎖切断が多かったということは、チェルノブイリの子供が凄くたくさん放射線を浴びてしまったということ。福島の場合は、低い線量、60億対ある1塩基のどれかが傷つくということが問題になる可能性が高くなる。ところがこの1塩基の変異というのは、普通に細胞が1回分裂するたびにも起こっているものですから、どれが放射線よって起こっていてどれが放射線以外で起こっているかというのを言うのは非常に難しいと思います。ですから、ここの検査をいくらやっても、これが放射線によるものかどうかという議論を今やることは非常に難しいと思います。

  • 動植物への影響
ナレーション(nona):さらに放射線の感受性の強い妊婦や胎児に対する考え方も割れています。小さな子供や乳児・胎児の細胞の中では、遺伝子が分裂して再生しています。放射線を浴びて遺伝子に傷が入ると、修復機能が働く前に細胞が再生し、遺伝情報の誤りが複製されやすいと言われています。放射線に対する子供たちの感受性が高いのは、こうした理由からです。
西尾正道:一番感受性の高いのは、もちろん、小さい子供だし、分裂が盛んだから…それよりもっと感受性の高いのは胎児なんですよ、生まれた子供よりもっと分裂が盛んなんですから…それよりもっと盛んなのは受精卵なんですよ。だからそこに放射線がかかったときに影響がでてきたら、受精卵の場合は流産につながります。それから胎児の場合は奇形がでてきたり先天障害の原因になる。
ナレーション(nona):東大病院きっての放射線治療のスペシャリスト、中川医師は…。
中川恵一(東京大学大学院医学系研究科准教授/放射線医学):(「福島の妊婦さんに関してはどうでしょうか?」)全く問題ないですよ。奇形児の発生が上がる、あるいはどれだけ被曝したら中絶を考えるかという数字は、100mSvということになってます。これは、国際的に100mSv以下であれば妊娠の中絶を考慮する必要はないということです。そういった量ではありませんから、まったく問題ありません。
児玉龍彦:(「昔はだいたい、妊娠初期の方のレントゲンは、基本的にタブーみたいな時代があったんですけど…」)今でもそうです。
中川恵一:(「もしお嬢さんが妊娠なされて、検査でX線撮るって言った時には、OKという感じですか?」)必要があれば。私は、あの、長女が産まれてすぐ肺炎を起こしましてね…やっぱりレントゲンを撮った時に、これはもう仕方がないと…。ただ、CTについては、ちょっと待ってくれって主治医の先生に言ったことがあります。普通のレントゲンとCTでは、もう全然被曝量が違いますから。
司会:ところで、降り注いだ膨大な量の放射能は、周辺の生態系にも大きな影響を与えました。研究者たちは、植物、昆虫、哺乳類から霊長類に至るまで、放射線の影響を調べています。
ナレーション(nona):(ヤマトシジミの映像)折れた翅、伸びきらなかった翅、つぶれた眼。原発事故後の5月、琉球大学の研究者たちが福島に入り蝶を採集、そして繁殖させてみると…。(取材者「ここの眼のところがね、陥没してる」)その名はヤマトシジミ。
ナレーション(nona):福島から持ち帰った144匹の個体を正常なヤマトシジミと交配させ、2358匹の幼虫が産まれました。
大瀧丈二(琉球大学理学部准教授):放射線の専門の先生からですね「まぁそんな影響は起こるはずはないだろう」と、まぁ現在の常識から考えて線量的に低すぎるし、そういうことは起こらないだろうと言われてました。でも実際にやってみると、思いのほか、飼育実験で幼虫が死んでいったり、さなぎが出てこないとか…まぁそういうのが出てきまして、最初はやはり急には信じられなかったというのが印象ですね。
ナレーション(nona):つづいて、沖縄のヤマトシジミの幼虫に、福島の汚染した餌を食べさせたところ、死ぬものや形態異常が多発。内部被曝の影響です。
(取材者「一個体あたり、ほんとに数㏃で個体の異常が出てくるというのは私が非常にショックだったんですけれども…」)
大瀧丈二:そうですね…いやぁ、それ私もショックで…今でもホントかなとちょっと思うんです。まぁグラフに見るとですね、確かに相関係数もあるし統計的にも有意なんですけど…。ただ、統計的に有意だからいつも真実かというと、そんなことはないので…。
ナレーション(nona):さらに、形態の異常と放射線の関係を調べるため、人工的にヤマトシジミの卵や幼虫に照射実験を行いました。その結果、あからかに形態異常が増えたのです。
大瀧丈二:蝶の場合、やはり飛んでいかないと餌にもありつけませんし、交配もできない、次世代を残せない、ということで翅の異常はやはりすごく打撃は大きいと思います…。触角の異常とかですね、あと眼の異常、そういうものは基本的に、まぁすぐに死んでしまうような異常ではないかなと思います。やはり最初の時非常に大きな被曝が起こってしまったので、その影響で遺伝子が傷ついてしまって、それが蓄積していって数世代後に影響が大きくなっていくという…。(「その世代の異常というのが7割を超えるという…私は、非常にこれはびっくりしたんですけど」)そうですね、ホントにびっくりしました。…最初の実験でも7カ所やってますし、で、どれも似たような傾向を示すわけで、そうするとやっぱりこれはホントなのかな?というふうに考えざるを得ないところですかね。…どれがどうだっていう、すごく細かくはこの実験では言えないんですけど、おそらく原子力発電所から放出された物質が影響しているだろうというふうには言えます。

ナレーション(nona):福島で採取したアブラムシの一種ワタムシ(オオヨスジワタムシの1齢幼虫脱皮殻の画像)、左が通常、右はお腹がふたつに…。ワタムシは2㎜ほどの小さな虫です。研究しているのは北海道大学の秋元教授。
秋元信一(北海道大学昆虫体系学研究室教授):2012年にですね、行ったときには、んー…まず全体として昆虫の数の数が少ないということと、それと鳥もあんまり鳴いてないっていうことが印象的でした。卵がですね、放射性物質の影響を受けているというふうに考えています。で、そこから出てきた幼虫は、身体の一部に瘤状のものができていたり、あるいは関節のところからもう一本の足が出来かけていたり、そういうふうなよぶんの部分が増えてしまっているような、他では見られないような形態異常が、2012年には見つかりました。…形態異常の原因はもちろんいろいろあるんです。例えば寄生者・寄生虫が入り込むことによって生じるとか、それから化学物質ですね、そういうのがいろいろ知られていますけれど……住民の方が避難されていますから、農業が行なわれていなくて農薬関係の化学物質が全く使われてないところでこういう形態異常が見られた、と…消去法でしかないんですけれど、放射性物質の影響は大きかったんじゃないのかと判断しています。
ナレーション(nona):ワタムシの奇形は2012年をピークに減少し、現在は他の地域との差は無くなっています。
ナレーション(nona):一方、植物でも異常が起きています。帰還困難区域のモミの木に、高い割合で変化が起きていました。それはモミの木のこの(主幹先端部)部分。
渡辺嘉人(放射線医学総合研究所主任研究員):非常に形態が変わっている頻度が高いな、と。まぁ芽というか幹ですね、上の方に直立している幹の部分が、途中から無くなっている。(場所は)大熊町の、観察した中では原発に最も近い場所になります。だいたい9割以上の本数の…(「9割ですか?」)9割以上ですね。空間線量が高い地域で形態異常の発生頻度も高くなるという対応関係はありました。現地で、実際放射線がどれくらい当たったかということ自体、まだ十分に調べられていないので、まずそうした現地での状況を再現する。その再現した条件を、今度は実験室内で再現する。そういうようなことを地道にやっていく必要があると考えています。
ナレーション(nona):(実験室でのモミの木への照射の予備実験)ここでも、初期の放出量が分からず研究の妨げとなっていました。実証実験を今進めていますが、放出データがないので被曝量を推測するところから始めなければならないのです。

ナレーション(nona):(大熊町、自動車道の真ん中をウシの群れが移動してゆくシーン「すごい数だ」の声)帰還困難区域に取り残されたウシ。汚染地域で生き続けたあと殺処分となりました。これらウシの臓器や血液から、放射線の影響を調査しているグループがいます。このエリアでは、白い斑点の出たウシがかなりの頭数見られました。
岡田啓司(岩手大農学部准教授):飼われてる地域の空間線量が高いところだと血中セシウム・レベルが非常に高い値だったんですね。あの当時ですと、ウシ自体が1万㏃という非常に高い汚染を受けてる個体もゴロゴロしてましたので…。チェルノブイリの時にツバメの白斑が問題になったということもあって、ウシに白斑が多発してるのはよく画像として流れ出ています。線量のうんと高いところでは、発症が一頭もないんですね。3μSv、4μSv程度のところのウシで多発している。病理学的に突き詰めていくと、メラニン色素が無くなっているというところまで分かっているんですけれど、何で無くなったかということに関してはまだ分からない。高等動物になればなるほど、遺伝子の修復能力って高くなるんですね。ですから、被曝の影響で遺伝子が損傷されたとしても、それは自分で修復してしまう。…で、被曝の1年半後あたりからそういうものが出始めたというのは、タイミングとしては早過ぎるんですね。どう見ても早過ぎる。…で、さらに線量が低いところで多発している。被曝の直接の影響ではないという診断を示している白斑ですけども、今までの学問レベルからすると、現在程度の被曝量だと何も起こるはずがないというのが常識、らしいんですけども…何も起きないとは言い切れない、んじゃないかなという雰囲気はなんとなく漂ってる感じはします。

ナレーション(nona):(自動車道を移動中のニホンザルの群れ)人間と同じ霊長類、サル。原発事故でのサルへの放射線影響調査は、世界で初めてとなります。血液検査の結果には、チェルノブイリ原発事故後に人間の子供たちに見られた特徴がくっきりと現われていました。
ナレーション(nona):(福島氏の住宅地に現われた子猿)サルに対する世界初の放射線影響調査。対象にしたのは、福島市周辺の群れです。
羽山伸一(日本獣医生命科学大教授):チェルノブイリの時に人間の子供に出た影響っていうのが、やはり血球数が減少して、それが10年以上の時間をかけて回復してきていると…まぁおそらくそういうことがサルでも起こるんではないかと考えまして、血液検査を実施しました。個体のセシウム蓄積レベルが高くなればなるほど、白血球数が減少していくという、そういう関係が認められました。セシウムの蓄積濃度というのは、結局直前に食べた餌の汚染レベルに関わりますので、被曝量を必ずしも表せるものではないんですよね。ですから、因果関係は非常にむしろ出にくいのかなというふうには思ってます。白血球数というのは、子供の方が大人よりも一般的には高い値を示すんですね。ところが今回の福島のサルたちは、子供たちの方がむしろ大人よりも低くなっていて、とりわけ2歳以下の、まだ母親と一緒にくっついているような子ザルたちで大幅に下がっている。
ナレーション(nona):(青森県のサル)福島のサルと比較するために選んだのは、放射能で汚染されていない青森県のサル。どのような違いが見つかったのでしょうか?
羽山伸一:(青森と福島の2歳以下の子猿の白血球数グラフ)青森の子ザルの一番低い値と比べて、福島の子ザルたちは8割以上がその値よりも低いということで、…まぁ相当な低下を示しているっていうふうに考えました。

ナレーション(nona):(川を泳ぐヤマメたち)原発周辺の川に生息するヤマメにも血液に影響が…。
中嶋正道(東北大学准教授):全体としてちょっとヘモグロビン量が少なくなっているんではないかと考えています。検出されたセシウムの量が多いほど、ヘモグロビンの濃度がすこし薄くなるという傾向ですね。すこし貧血気味になるのかな、という…人間に例えればですね。

司会:ご覧いただいた通り、事故の前では見られなかった変化が生態系に現われています。では人間が放射線を浴びると、いったいどうなるのでしょうか?これは1999年に起きたJCOの臨界事故で大量の放射線を浴びて亡くなった方の右腕です。強烈な放射線がズタズタに遺伝子を切り裂き、体中の細胞が再生されることなく死んでいきました。福島第1原発事故では急性被曝による死者は一人も出ませんでした。しかし問題となっているのは、低線量の被曝です。
ナレーション(nona):(テロップ「低線量被ばくとは100ミリシーベルト以下の被ばく」)福島第1原発で復旧作業に従事した作業員たち。被曝線量が100mSv以下でも、体の不調を訴える人が出ています。Aさんには、忘れられない一日があったと言います。
Aさん(49歳いわき市在住被曝線量50mSv):もう、ここ5年でかなり悪くはなったですね、いろいろなかたちで。(テロップ「東電などに損害賠償を求め係争中」)一番悪くなったのは、そうですね…腎臓、心臓、臓ってつくものに対しては全部…いろいろな数値がもう悪くなって…。東電の方の社員が同じ作業場に来まして、その人が空間線量を水面近くで測ったら400mSvあったと。それで全員退避と。もう、最初から分かってるんですよ、3人同時に線量計オーバーで鳴っていて、その時点でここは尋常じゃないと…それでも仕事を続けること自体が間違っていると思う。まぁ10mSvしか結局被曝していないんですけど、あの作業は結局、意味ある被曝なのかね?意味のない被曝であんな怖い思いをしたのか…
ナレーション(nona):Aさんと同じく裁判を起こしたBさん。
Bさん(53歳札幌市在住被曝線量56mSv):福島第1原発は、震災のあった11年の7月から10月まで。(テロップ「ガレキを直接、手で持って撤去した/東電などに損害賠償を求め係争中」)まだ湯気が立ってたね。ちょうど原発の仕事がもう終わっちゃって月日が経ったときに、東電から健康診断受けてくださいということで、甲状腺胃カメラ大腸検査と眼の検査をして…(「見つかったのが胃癌と大腸癌ということでよろしいですか?」)はい、あと白内障と…胃は食道の方に近いところにあったので全摘ということになっちゃったですね。あれだけ悲惨なところへ命がけで行ったのに、実際自分はこうだった、どこも強制(?)を知らないみたいな、そんなこと言われたり…。それ一番腹立ちますよね。
ナレーション(nona):Cさんの仕事は4号機近くでのクレーンの操縦。
Cさん(41歳北九州市在住被曝線量19.8mSv):10月の20日に厚生省のほうから、今回労災の認定がされましたと(テロップ「倒れた巨大クレーンのアームを切断した/昨年10月白血病が労災認定された」)。で、医療費と給与保証金が出ますっちゅう話はされました。…歩いても動悸がしたり、咳が出ても何か痰が出ないとか、今までに感じたことがないような風邪の症状みたいな感じですね。検査したら急性骨髄性白血病ちゅうの、そのとき診断が出たんですよ。そのとき言われたのが、骨髄、自分の骨髄の中の70%以上は癌細胞が溢れていると。5年生存率が3割しかないとか、そういうふうなのが医学書に載っていたんで、あー自分はもうたぶん駄目やろねっちゅう、まぁ死んでいくぐらいの気持ちはありましたね、はい。
ナレーション(nona):第1原発の復旧作業にあたった人で労災申請をした人はこれまで8人。認定されたのはCさんただひとりです。ICRP(国際放射線防護委員会)は低線量でも発癌の閾値はないというモデルを採用しています。50mSvには50mSvの、10mSvには10mSvのリスクがあります。しかし日本では、この点がきわめて曖昧にされています。厚生労働省によると「100mSv未満の低線量による放射線の影響は科学的に確かめることができないほど小さなもの」、文部科学省は「放射線によるがんのリスクの上昇は確認しておらず」、放射線医学総合研究所は「明確なリスクの増加は、観察されていない」などとしています。専門家の間でも意見が分かれています。
津田敏秀
岡山大学環境学研究科教授で疫学専門家として県民健康調査の結果を独自に分析
「初期のがんより後のがんの方が多い。小児甲状腺がんはこれからババッと増えてくる可能性が高い。」
発言要旨:低線量であっても累積モデル、要するに積算した放射線レベルで測るということですね。その線量レベルというのは、100mSvどころか恐らく今分かってる感じでは1mSvごとくらいまで分かっている。100mSv以下は癌が出ない、あるいは出たとしても分からないという日本の中で流布してる考えは完全に風説なんですね、根拠に基づかない。
今西哲二
元京都大学原子炉実験研究所助教で「熊取六人衆」の1人/チェルノブイリ原発事故の被害を調査、福島でもいち早く現場で線量調査
「20ミリシーベルトは私たち放射線作業従事者の1年の上限。子どもを含めて適用するのはとんでもない話。」
発言要旨:100mSv以下で影響は観察されていませんという先生方はいっぱいいる。それが政治家や役人になると「影響はありません」に化けてしまう。両者は全然違う話。
祖父江友孝
大阪大学大学院医学系研究科環境医学教授/集団の疾病を対象に分析する「環境医学」の専門家
福島の子ども達の甲状腺検査にはメリットがない。」と主張
発言:わかんないんですけど、まぁ、わかってることはですね、「そんなに大きな影響ではない」ということですね。これは明らかですね。煙草とかお酒とかですねウイルス感染とか…。発癌要因でも明らかに高リスクに上げるものもありますけど、そういうものに比べて100mSv以下の放射線というのは非常に小さな影響であると。これをですね、皆が異論を唱えるわけでなく、これは専門家の間では共通認識であると思いますよ。
長瀧重信
長崎大学名誉教授/放射線影響協会理事長/首相官邸の原子力災害専門家グループの一人として被曝に関する政策立案を主導
チェルノブイリの経験から、福島の事故で明らかな健康被害は起こらない」
発言:低線量っていうのは何かっていうと、よく100mSvと言われてますけども、その100mSvまでは日本の原爆の被曝者の方の協力によってですね、もう世界でこれしかないような調査結果がある。まぁそういう条件で言うと、100mSv以上はあきらかに癌が増えると。しかしそれ以下は、他の生活環境の条件と紛れてしまうのでわからないと…。
中川恵一
東京大学医学部放射線科の医師で「放射線とがん」に関する著書多数
甲状腺がんの増加は放射線によるものではない。今後、避難先などで生活習慣病を悪化させかえって発がんリスクを高める可能性がある。」
発言:確かに放射線というのはある量になってくると癌を増やすんだけれども、100mSv以下になると、まぁ癌を増やすかもしれませんが、しかし日常生活の中のさまざまな生活習慣にかき消されて増えたかどうだかわからない。逆に言うと、みなさんが心配されているほどには、少なくとも影響はないということなんですね。実はもう、「本当に怖いからなるべく避難しときましょう」と、そのことによって実は別な発癌リスクを、結果的にはしょい込むことになるんですね。
島薗進
東京大学文学部宗教学教授で、宗教学・倫理学・哲学を基盤に、低線量被曝のリスクと科学者のあり方について分析
「(政府は放射能について)調べない、知らせない、助けない。真実を知らされないストレスは大きい。」
発言要旨:日本は唯一の被爆国ということもあって、チェルノブイリの事故があった時に世界の原発推進側は、日本の科学者を被害の過小評価の情報発信の方に組み入れるという動きがあったふうに見える。
ナレーション(nona):低線量長期被曝について専門家の意見が割れていることで、福島だけでなく日本の社会の中に大きな混乱が生じています。放射線の過小評価は、第2の安全神話につながりかねません。こうした中、政府は居住制限区域などへの帰還を進める閣議決定をおこないました。
長瀧重信:本当に被災者のためになっているのか?そういう考え方を、もう5年目ですから、積極的に持ってこなければいけない。被災者全体として、被害を少なくするという感覚ですね。放射線の被害を、じゃなくて、放射線も含めた全体の被害を少なくするような対策を考えるべきだ。子供が怖いからなんとなく避難させる、あるいは市民の検査をするということは本当に子どものためになっているのか?病気の起こる可能性と、それからそれだけ検査を続けることの精神的被害を比較した場合にね…それこそ社会学的な心理学的な分も含めて被災者のための被害を最小にする対策は何だろう、という視線からの議論がやっぱりもっと必要な感じがいたします。
島薗進:心配することが良くない、不安を持つことが良くない、その影響の方が低線量被曝の影響そのものよりもむしろ懸念すべきことなんだ、という、こういう考え方がある。低線量では大した健康影響はない、という、そちらのニュアンスで科学情報を広めることに相当のエネルギーを注いできた。
司会:福島第1原発事故から5年、私たちは放出された放射脳から逃れることはできません。もう事故前に戻ることはできないのです。大地を汚染したセシウム137の半減期は30年。除染の効果は限られており、10分の1に減るまで100年を要します。放射能の影響を最小限にとどめながら、どのように復興していくのか?私たちは重い課題を今も突き付けられています。
ナレーション(nona):低線量でも労災と認められた人がいました(Cさんのシーン)。原発作業員には被曝の記録が残っています。(エンド・ロール)一方、事故直後の放射能測定は十分に行われませんでした。私たちは誰一人、自分の被曝線量を知りません。将来、もし癌なる人が増えても、あの時の放射能が原因だと証明することはできないのです。た・だ・の・ひ・と・り・も…。
西尾正道:日本はあまりにも見識がなさすぎる。ひどすぎる、これは。これは静かなる殺人ですよ。
企画・取材―倉澤治雄/ナレーター―nana/シリーズ第字―柿沼康二/撮影―大澤弘/音声・照明―吉澤正隆/バーチャル―斉藤利紀&中村桂子/TM―小和瀬達也/FIX―望月達史/SW―村松明/MIX―瀧健太郎/スタジオカメラ―渡辺滋雄&大澤弘/照明―小川勉/VE―飯島友美/FM―田代佳弘/サブ出し―村松宏英/CG―安田朝実/アーカイブ―弘田裕人/映像提供―青森放送&前川和彦東大名誉教授/編集―松本幸司/EED―近藤雅明/音効―北条玄隆/ミキサー―山口誠/交渉・リサーチ―香野香穂里/デスク―金森恵美子/ディレクター―加藤就一/プロデューサー―有田泰紀&村松宏英/チーフプロデューサー―原井聡明/製作著作ー日テレ

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