2016年10月9日日曜日

161009毎日新聞 続報真相 本土「常識」の誤解 辺野古移設は仕方ない?

続報真相 本土「常識」の誤解 辺野古移設は仕方ない?

毎日新聞 2015年10月9日 東京夕刊

http://mainichi.jp/articles/20151009/dde/012/010/004000c

 あくまでも民意に耳を傾けないのだろうか。「反対」の世論を押し切って安全保障関連法を成立させた安倍晋三政権である。永田町から目を転じれば、沖縄県民の声を無視して米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設工事を強行している。だが、私たちもどこかで「辺野古移設は仕方がない」と思っていないか。ヤマトンチュー(本土の人)の「常識」を検証する。

その1 「日本の抑止力維持のために必要だ」

 軍事費を膨らませる中国がコワい。最近は周辺国と領有権を争う南シナ海の岩礁・暗礁を埋め立てて軍事拠点となり得る人工島を造っている。ならば尖閣諸島を守るはずの沖縄の米軍基地を減らせず、辺野古移設はやむを得ない−−という「常識」だ。

 「不勉強も甚だしい。普天間飛行場は米海兵隊の航空部隊の拠点だが、そもそも沖縄の海兵隊に日本を守る抑止力(他国に攻撃を思いとどまらせる反撃能力)はないんだ」と諭すのは、元朝日新聞記者で、冷戦期から防衛問題を取材してきたジャーナリストの田岡俊次さんだ。

 「沖縄の海兵隊の大半は補給・医療などの後方支援部隊で、戦闘部隊は2000人規模の『第31海兵遠征隊』だけ。その主力の歩兵1個大隊はわずか800人ほどです。しかも装備は装甲車が21両、大砲6門、戦車はゼロ。普天間飛行場配備の航空部隊(第36航空群)は、新型輸送機オスプレイ24機とヘリコプター10機あまり。この程度の兵力で戦争はできない。海兵隊の駐留は北東アジアの有事・騒乱時の在留米国人救出が主な目的なんです」

 田岡さんによると、日本に関わる抑止力の柱は、横須賀基地(神奈川県横須賀市)に配備された原子力空母など、米海軍第7艦隊だ。「尖閣諸島に限らず、島国を守るには制空権・制海権の確保が重要ですが、上陸作戦専門の海兵隊にその能力はない。海兵隊は抑止力にならず、辺野古はもちろん、沖縄に駐留する必然性もないんです」

 海兵隊を運ぶ揚陸艦4隻は佐世保基地(長崎県佐世保市)に配備されている。田岡さんは「この周辺に海兵隊の歩兵・航空部隊を移すのが合理的」と説明する。「付け加えれば『1992年にフィリピンから駐留米軍が撤退したから中国が南シナ海に進出した。だから沖縄の基地は減らせない』と言う人がいるが誤り。中国の進出は87年からです」


その2 「基地があるから国に優遇されている」

 この「常識」、うがった見方をすれば、国は他地域より多くの予算を沖縄に回している、だから沖縄は黙って辺野古移設を受け入れろ、というニュアンスを感じる。

 「誤解の最たるものだね。少し勉強すれば分かるはずだが……」。沖縄4区選出の衆院議員、仲里利信さん(78)はため息交じりにに語る。元県議会議長で自民党沖縄県連顧問も務めた沖縄保守政界の重鎮だが、辺野古の基地建設に反対して自民党から除名処分に。昨年末の衆院選で、建設容認派の自民党前職を破り初当選した。

 その仲里さんが解説する。「確かに沖縄県には内閣府所管の『沖縄振興予算』があるが、72年の本土復帰まで国の予算措置や国土開発がなされなかったため始まった制度。でも振興予算の半分は那覇空港整備や不発弾処理など、国が本来やるべき事業や各中央省庁の直轄事業で、これが『振興予算』の名前で入り込んでいる。本当に県が沖縄振興に使えるお金は多くはありません」

 県によると、2013年度決算では、振興予算(3337億円)を含む国庫支出金と地方交付税交付金の合計額は7330億円。これは県民1人当たり換算で全国6位で、これまで1位になったこともない。飛び抜けて沖縄が優遇されているとは言えないのだ。

 さらに「基地がないほうが沖縄は豊かになる、というデータもある」と仲里さん。80〜87年に返還された県内3地区の旧米軍用地の経済効果が、返還前後でどう変わったかを県が推計したものだ。返還前の年間の基地関連収入は3地区で計90億円だったが、返還後は跡地にショッピングモールなどが建てられ、経済効果は2436億円に膨らんだという。

 「辺野古移設を認めた仲井真弘多前知事ですら06年、基地による経済効果1800億円に対し、基地全面返還による経済効果は1兆7000億円と推計した。基地がないほうが沖縄は確実に発展します」(仲里さん)

その3 「『独立論』は空論。新基地を押し付けても沖縄は政府に逆らわない」

 昨夏、英スコットランドで英国からの独立の賛否を問う住民投票があり、反対派が僅差で勝った。この選挙戦を沖縄のメディアや大学研究者らが現地視察していたのはあまり知られていない。沖縄出身の龍谷大教授、松島泰勝さん(地域経済論)もその一人で、沖縄を琉球と呼ぶ。沖縄では今、日本からの独立を目指す論議が深く、静かに進んでいると語るのだ。

 「これまでの独立論は居酒屋談議でしたが、今は違う。13年には政治・経済や国際法の研究者らで『琉球民族独立総合研究学会』を設立し、技術的・学問的に真剣に研究されています」

 背景にあるのは、復帰から43年たった今なお、在日米軍専用施設の74%を押し付ける本土の犠牲になるのはもうごめんだ、という思いだ。さらに昨年、名護市長選から県知事選、衆院選に至るまで、辺野古移設反対の明確な民意が示されたのに、政府が移設を強行したことが決定打になった。

 「第二次世界大戦後、多くの植民地が独立しましたが、各宗主国憲法も日本の憲法同様、独立を認める条文はありません。ですが、多くの国は国際法に基づき、国連支援下で平和的に独立した。琉球も法的に可能です」

 道筋は3段階。(1)独立を求める沖縄世論を形成し、国際社会に基地問題の深刻さをアピールする(2)県議会が、植民地独立を支援する国連・脱植民地化特別委員会のリストに沖縄を登録するよう求める議決をした上で、同委や国連加盟各国に登録を働きかける(3)登録後に国連監視下で独立を問う住民投票を実施する−−という流れだ。

 「琉球は日本と文化も民族も異なるれっきとした独立国でした。ですが1879年、日本政府は琉球に軍隊を送り、武力で脅して併合した。これは当時も今も国際法違反です。現在も日米が基地を置くために利用している。植民地と全く同じです」

 独立後は琉球のトップが国家元首として米大統領と直接交渉し、基地撤去を求める。日本から独立すれば沖縄に基地を置く法的根拠はなくなるからだ。「仮に辺野古移設を強行すれば琉球人の心はいよいよ日本から離れ、独立の動きが加速します」と松島さんは断言した。

その4 「中国と日米は対立している。日米同盟の堅持に移設は不可欠」

 中国の南シナ海進出に米軍高官らが批判を強めている。日本国内にも、米国が中国を仮想敵とするのは心強い、とばかり「米中対立」を期待する向きが一部の保守層、メディアにある。だが前出の田岡さんは「米中の武力紛争はあり得ない」とあきれるのだ。

 米国にとって中国は世界一の米国債保有国であり、ドイツの国内総生産並みの3兆5000億ドルの準備外貨の大半を金融市場で運用してくれるお得意さんだ。

 「しかも米航空機・自動車業界は中国市場が支えているし、中国にとっても米国は最大の市場かつ投融資先。ガチガチの相互依存関係です。中国を仮想敵にしたいのは存在感を高めて予算確保したい米海軍や、日本の外務省や保守派と仲が良いリチャード・アーミテージ氏ら古い世代の米国防関係者だけ。米政府は中国に『苦情』は言っても、対立は避けたいのです」。だから米国は繰り返し日本に中国との関係改善を求めているのだ。

 「辺野古移設が頓挫しても海兵隊は困らない。横須賀、佐世保両港は米国の制海権を保つのに欠かせず、基地の維持費を出してくれる日本との同盟を米国は手放さない。辺野古移設にこだわる必要は日米ともにないんです」

 これでも、辺野古移設は「仕方ない」と言えるのだろうか。【吉井理記】

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