もんじゅ廃炉 サイクルの破綻認めよ
毎日新聞
日本原子力研究開発機構の高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)について、政府の原子力関係閣僚会議は、廃炉を前提に抜本的に見直すことを決めた。関係自治体と協議の上、年内に最終決定する。
もんじゅには1兆円を超す国費が投入されたが、相次ぐ事故や不祥事で、この20年間余り、ほとんど稼働していない。再稼働には数千億円規模の追加投資が必要だという。それでも、成果が見通せない施設である。廃炉は当然だ。これまで決断を先送りしてきた政府の責任も、厳しく問われなければならない。
決断遅れた政府に責任
原発の使用済み核燃料を再処理し、抽出したプルトニウムをウランと混ぜた混合酸化物(MOX)燃料に加工して、原発で再び燃やす。これが核燃料サイクルで、日本は国策としてきた。消費した以上のプルトニウムを生み出す高速増殖炉は、使用済み核燃料の再処理工場とともに、サイクルの中核施設となる。
閣僚会議の決定で首をひねらざるを得ないのは、もんじゅを廃炉にするにもかかわらず、核燃料サイクル政策や高速炉の研究開発は維持する方針を示していることだ。
核燃料サイクルの実現には、技術面や経済性、安全保障の観点からいくつもの課題がある。青森県六ケ所村に建設中の再処理工場も、トラブルなどで完成時期の延期を繰り返してきた。そこで目くらましとして中核施設のもんじゅを廃炉にし、破綻しているサイクル政策の延命を図るのが本当の狙いではないのか。
政府は、核燃料サイクルで取り出したプルトニウムは準国産エネルギーで、エネルギー安全保障に資するという。だが、サイクルを維持することは、エネルギー政策で原発に依存し続けることを意味する。
東京電力福島第1原発事故の教訓の一つが、地震国日本で原発に依存するリスクは高いということだ。いずれ、やめる必要がある。政府はもんじゅ廃炉を機に、核燃料サイクル政策の幕引きに踏み切るべきだ。
もんじゅは、原子炉の熱を取り出す冷却材に、空気や水に触れると燃える性質を持つ液体ナトリウムを使う。水を冷却材に使う通常の原発に比べ、高度な技術が必要だ。1995年12月にナトリウム漏れ事故を起こして停止して以来、ほとんど稼働していない。維持管理費だけで年間約200億円かかっている。
多数の機器点検漏れなど安全管理上の不備が相次ぎ、原子力規制委員会は昨年11月、所管の文部科学省に運営主体の変更を勧告していた。
文科省は、電力会社など民間の協力を得て新法人をつくる案を模索した。しかし、電力自由化で競争環境が厳しさを増す中、電力会社に運営主体となる選択肢はなかった。
再稼働には、規制委の新規制基準にも合格しなければならない。政府の試算では、耐震補強工事などで約5800億円が必要となる。追加費用の多額さも、廃炉論を加速した。
もんじゅ廃炉後の焦点は、再処理で抽出したプルトニウムをどのように消費するかだ。英仏に委託した使用済み核燃料の再処理などで、日本は既に国内外で約48トンの余剰プルトニウムを抱える。テロや核兵器への転用の懸念を解消するため、政府は「余剰プルトニウムは持たない」と国際社会に繰り返し訴えてきた。
安全保障上の懸念も
電力会社でつくる電気事業連合会はMOX燃料を通常の原発で使う計画を立て、全国で16〜18基の原発に導入する予定だったが、福島第1原発事故の影響で崩れた。国内で稼働中の原発でMOX燃料を使っているのは、現時点で四国電力伊方原発3号機(愛媛県)だけだ。プルトニウムの消費は進んでいない。
政府は、フランスが建設予定の新型高速炉計画「ASTRID(アストリッド)」での共同研究などにより、高速炉の研究開発に引き続き取り組むという。だが、ASTRIDが順調に進む保証はない。
そもそも、福島第1原発事故後に政府の原子力委員会が実施した核燃料サイクル政策の評価によれば、経済面からは、使用済み核燃料を再処理するより、直接処分する方が有利との結果が出ている。
非核保有国の日本が再処理できるのは、88年に発効した日米原子力協定で認められているからだ。協定は2年後に改定時期を迎える。11月の米大統領選で選ばれる新政権がどう対応するかは分からない。
国内の政治家や外交当局には、将来の核保有を選択肢として残しておくべきだという意見もあるが、日本が核保有を選択すれば、世界から孤立する。現実的議論ではない。
核燃料サイクルを見直す上で、最大の課題は、関連施設を受け入れてきた地元への対応だろう。
もんじゅの関係自治体は、存続を要望している。再処理工場が立地する青森県は、核燃料サイクルを前提に、工場への使用済み核燃料受け入れを了承してきた。サイクル断念となれば、青森県は核のごみ捨て場になりかねない。電力会社も容易には使用済み燃料を引き取れない。
政府は、核燃料サイクルの継続にこだわるよりも、こうした問題の解決策にこそ知恵を絞るべきだ。
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