天皇陛下 象徴の務め果たせるものが天皇位にあるべき

天皇陛下 象徴の務め果たせるものが天皇位にあるべき

関係者によりますと、天皇陛下が「生前退位」の意向を示されたのは、今から5年ほど前だということです。以来、天皇陛下は、「象徴としての務めを果たせるものが天皇の位にあるべきで、十分に務めが果たせなくなれば譲位すべきだ」という考えを一貫して示されてきたということです。
天皇陛下は、昭和天皇の崩御に伴い、55歳で、今の憲法のもと、初めて「象徴」として即位されました。現代にふさわしい皇室の在り方を求めて新たな社会の要請に応え続けられ、公務の量は昭和天皇の時代と比べ大幅に増えています。
天皇の務めには憲法で定められた国事行為のほかにも公的に関わることがふさわしい象徴的な行為があると考え、式典への出席や被災地のお見舞いなどさまざまな公務に臨まれてきました。前立腺がんや心臓の手術も乗り越え、高齢となっても、天皇の公務は公平に行われることが大切だとして、公務を大きく変えられることはほとんどありませんでした。
一方で、82歳の誕生日を前にした去年暮れの記者会見では、「年齢というものを感じることも多くなり、行事の時に間違えることもありました」と率直に老いや間違いを認め、「少しでもそのようなことのないようにしていくつもりです」と述べられました。
関係者の1人は、「口には出されないが、負担感はかなり増しているのではないか。普通のお年寄りのように引退して好きな趣味などをゆっくり楽しまれたいはずのお年なのに、記者会見であのように話されたのが大変お気の毒で申し訳なく感じた」と話しています。
また、別の関係者は、「ご自身が考える象徴としてのあるべき姿が近い将来体現できなくなるという焦燥感やストレスで悩まれているように感じる。公務の多さもされど、象徴であること自体が最大の負担になっているように見える。譲位でしか解決は難しいと思う」と話しています。

歴代天皇の譲位

現在、天皇の「生前退位」の制度はありませんが、皇室の歴史をさかのぼると、昭和天皇までの124代の天皇のうち、半数近くで譲位が行われてきました。飛鳥時代半ばの645年、35代の皇極天皇が孝徳天皇に譲位したのが始まりだとされます。
その後、平安時代になると、譲位は頻繁に見られるようになり、江戸時代にかけて譲位による皇位継承が半数を大きく上回るようになりました。譲位した天皇には、最高の天皇という意味を表す「太上天皇」の尊称が贈られ、歴史の教科書にもたびたび登場する「上皇」という通称で呼ばれました。
しかし、明治時代半ば、大日本帝国憲法とともに定められた旧皇室典範で、譲位が強制されて政治的混乱を招いた時代があったことなどを理由に、皇位の継承は天皇の崩御だけに限られます。これは、戦後まもない昭和22年に制定された現在の皇室典範でも同様で、江戸時代後期の1817年に光格天皇が仁考天皇に譲位したのを最後に、およそ200年間、譲位は行われていません。

皇室典範 天皇退位の規定なし

天皇の位、皇位について、今の憲法では世襲されるとだけ定められ、皇室制度を定めた「皇室典範」にも退位に関する規定はありません。天皇の「生前退位」は認められておらず、天皇が崩御すると、皇位継承順位に従って自動的に次の天皇が即位する仕組みになっています。天皇は、生涯引退できない立場にあります。
こうした制度のもと、天皇が未成年であるか、重い病気などで国事行為にあたれない場合に限って、代役を務める「摂政」を置くことが認められているほか、天皇の一時的な体調不良や外国訪問などの際には、「国事行為の臨時代行」が行われています。

生前退位なら皇太子が不在に

今の皇室では、皇太子さまが天皇陛下に代わって即位されると、皇太子は不在となります。皇室制度を定めた皇室典範で、皇太子は、「天皇の子」であって、皇位継承順位が1位の皇族とされているためです。男のお子さまがいない皇太子さまが即位されると、弟の秋篠宮さまが皇位継承順位1位となりますが、皇太子にはなりません。
皇室の歴史では、天皇の兄弟や孫を皇太子としたケースや皇位継承順位1位の天皇の弟を「皇太弟」と呼んだケースもあります。天皇陛下の退位が認められるようになると、秋篠宮さまをどのように位置づけるのかが、にわかに検討の対象になってきそうです。

生前退位で元号も変わる

仮に、天皇陛下が生前に退位されて皇太子さまが新たな天皇として即位されると、「元号」が「平成」から新たな元号に変わることになります。昭和54年に制定された「元号法」では、「元号は、皇位の継承があった場合に限り改める」とされています。天皇の「生前退位」が認められていない今の制度では、天皇の崩御で皇位が継承された時にだけ元号が変わりますが、天皇の退位によっても元号が変わることになります。
関係者によりますと、天皇陛下は、数年内の譲位を望まれているということで、仮に、4年後に東京で開催されるオリンピックとパラリンピックの前に退位されると、東京オリンピック・パラリンピックは、皇太子さまを天皇とする新たな時代を迎えた日本で開かれることになります。

海外では相次ぐ退位

海外では、ここ数年、国王などによる「生前退位」の表明が相次いでいます。
3年前の2013年には、1月、日本の皇室とも親交の深いオランダのベアトリックス女王が、王位を皇太子に引き継ぐと発表し、続く2月には、ローマ法王のベネディクト16世が、高齢による体力の低下を理由に、ローマ法王としておよそ600年ぶりとされる「生前退位」を表明して世界の注目を集めました。さらに、この年の7月、同じく皇室と親交の深いベルギーの国王アルベール2世が、高齢などを理由に、皇太子に王位を譲ると表明しました。また、おととしにも、スペインの前国王、フアン・カルロス1世が、皇太子に王位を譲っています。