毎日新聞2016年6月6日
http://mainichi.jp/articles/20160606/ddm/002/070/068000c
参院選(7月10日)の争点は、増税再延期の「新しい判断」だそうだ。
新たに選挙権を得た18歳と19歳、計240万人(有権者の2%)の新しい判断はどう出るだろう。
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18、19歳は反自民、リベラル志向だと思っている人が案外、多い。安保関連法案反対デモで注目を浴びた学生団体「SEALDs(シールズ)」の印象に引きずられるからだろう。
だが、全体を見れば実は逆−−と推測できる興味深いデータがある。
社会学者、友枝敏雄大阪大大学院教授(64)の研究チームが福岡、大阪、東京の高校生延べ1万人超を対象に実施した意識調査の記録「リスク社会を生きる若者たち」(2015年、大阪大学出版会)である。
調査は、01年、07年、13年−−と、6年ごとに3回、公私立、普通科と職業科、男女にわたって行われた。結果に表れた著しい特徴は、21世紀が進むにつれ、「校則を守るのは当然」と考える生徒が増えていることだった。
「当然と思うか」と聞かれ、「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と答えた生徒の合計が、68・3%(01年)→75・4%(07年)→87・9%(13年)と目立って増えた。
反対に、「社会のルールを守らないことをかっこいいと思うことがあるか」と聞かれ、「よくある」「たまにある」と答えた生徒の割合は25・9%(01年)→18・1%(07年)→9・7%(13年)と、つるべ落としの後退である。
なぜか−−。研究チームはこう推理する。「現代は不確実性やリスクに富んだ社会であり、冒険的、逸脱的に振る舞うより、慣習的な規範に同調する方が合理的」だから……。
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さらに−−。
「太平洋戦争の件で日本は謝罪すべきだ」という主張への賛否を聞かれ、「賛成」か「やや賛成」と答えた高校生の割合は、64・5%(01年)→49・7%(07年)→39・6%(13年)と減ってきている。
反対に、「日本の文化や伝統は他の国よりも優れている」への賛成は、29・6%(01年)→38・7%(07年)→55・7%(13年)と伸び続けている。
「行事の際に国歌・国旗を用いるべきだ」に賛成する高校生も、17・7%(01年)→26・1%(07年)→39・1%(13年)と、年々増加する流れだ。
高校生の意識は保守化している。それは急速なグローバル化に伴う反作用であり、特に日中・日韓関係の緊張を反映している−−というのが、研究チームの見立てである。
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参院選は結局、アベノミクスの可能性の評価をめぐる争いになる。与党と野党の議論はこうだ。
与党「政権交代以来、雇用が改善し、税収が21兆円も増えた。野党も増税回避は支持している」
野党「雇用は非正規が増えている。税収増は、政権交代前に道筋がついていた消費税増税(5→8%)の結果。失敗は明白で公約違反の責任も重大」
どちらの主張に分があるか、専門家の解説も四分五裂、18歳どころか、中高年の有権者だって分からないのが実情である。
「リスク社会を生きる若者たち」によれば、保守化する若年層は、現状肯定の消極的な側面と、現状変革へ歩み出す積極的な側面を併せ持っている。
変革を求める新有権者は首相の「新しい判断」をどう評価するだろう。投票まであと34日−−。
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