地方議会から改憲「世論」
日本会議、改憲へ「世論」演出
毎日新聞 2016年6月5日
http://mainichi.jp/senkyo/articles/20160605/ddm/041/010/067000c
「ひな型」基に各地で意見書
「地方議会でなぜ憲法改正を……」。石川県議会で2014年2月、自民党など保守系会派が1枚の意見書を提案した。題は「国会に憲法改正の早期実現を求める」。野党県議の一人は意図が分からず困惑した。
「日本国憲法は、昭和22年5月3日の施行以来、今日に至るまでの約70年間、一度の改正も行われていない」で始まり、「時代にふさわしい憲法を求める」と訴える。具体的にどう改めるかは記されていない。野党は反対したが、数の力で2月21日に可決された。
3月に入ると香川や愛媛など7県議会で同様の意見書や請願が上がった。千葉、鹿児島の冒頭の一文は、句読点を含めて石川と一言一句変わらない。
地方議会で突如起きた改憲意見書ラッシュ。「誰かが演出している」。石川県の野党県議は思った。
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意見書には「ひな型」があった。石川県の中村勲県議(74)が内幕を明かす。作ったのは、改憲を目指す保守団体「日本会議」(会長=田久保忠衛(たくぼただえ)・杏林大名誉教授)だ。
石川での意見書可決前年の11月13日、日本会議は東京・永田町の憲政記念館に約800人を集め、全国代表者大会を開いた。「安倍政権下で実現しないと改憲の機会は遠のく」と檄(げき)が飛び、地方議会での意見書運動が提起された。会場で中村氏は「これだ」と思い、戻るとひな型に沿って意見書案を作る。
日本会議との出会いは10年ほど前。知り合いの神社関係者に紹介された。「現憲法は押しつけ」「誇りある国をつくるために改憲を」。主張に感銘を受けた。
以前は皇室や憲法改正の話をするのにためらいがあった。支援者から「右翼みたいだ」と言われるのを恐れたからだ。しかし、日本会議で同じ考えの人々と交流し、もやもやした思いが明確な言葉になった。同僚県議と地方組織を作って仲間を誘った。今は「真正保守」を自負する。
保守系地方議員の熱意は一様ではない。改憲は必要だと考える石川県内の自民若手市議が言う。「日本会議はあまりに右寄りで、排外主義のにおいがする」
そんな声をよそに各地で中村氏のような議員が動いた。日本会議も自民県連に陳情を重ね、意見書が続々上がっていく。自民党本部が全国に取り組みを促したことも後押しした。
意見書に法的な効力はないが、数を積み上げていけば「世論」となる。
日本会議の前身団体は1970年代、元号法制化運動に取り組み、46都道府県議会が意見書を上げた。福田赳夫内閣で問題の所管閣僚だった稲村佐近四郎(いなむらさこんしろう)・総理府総務長官(当時)は「多くの議会が求めているということは、議員に投票した数多くの国民が支持しているということだ」と語った。元号法は強い批判をはね返し、79年に成立した。
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日本会議の政策委員長の大原康男・国学院大名誉教授は昨年9月8日、長野市の長野県神社庁2階講堂で講演し、こう語った。「改正は環境権や緊急事態条項など合意を得やすいところから始めよう。一度憲法に手を入れればタブー視はなくなり、前文や9条の改正が見えてくる」。改憲の中身を明示しないのは人々を幅広く引きつけるためだ。
意見書とともに、日本会議の主導する「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の改憲賛同署名も進む。目標1000万筆で、地方の神社の宮司や氏子組織も動く。あらゆる運動は、来月の参院選後に目指すべき憲法改正の発議と国民投票に照準を合わせている。
今年の憲法記念日の5月3日。国民の会は東京・平河町の砂防会館で集会を開いた。署名700万2501筆とともに、意見書や請願が33都府県議会で上がったことが報告された。
集会で安倍晋三首相のビデオメッセージが流れた。「みなさんの取り組みを心強く感じています。憲法改正に向けてともにがんばりましょう」。首相は日本会議国会議員懇談会の特別顧問である。【川崎桂吾】=つづく
意見書可決や請願採択の時期と自治体
2014年
石川県、千葉県、富山県、香川県、愛媛県、熊本県、鹿児島県、兵庫県(請願)、群馬県、栃木県、埼玉県、高知県、山形県、岡山県、山口県、佐賀県、長崎県、大分県、宮城県、和歌山県、宮崎県、※神奈川県、岐阜県、大阪府、※福井県
15年
※京都府、茨城県、※東京都、徳島県、※静岡県、※新潟県、山梨県、※秋田県
※は国民投票や憲法改正までは求めず国民的議論を求める内容
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