社説 甘利氏のけじめ 調査の約束どうなった
毎日新聞 2016年8月20日 東京朝刊
http://mainichi.jp/articles/20160820/ddm/005/070/035000c
あくまで刑事責任は問えないということだ。一件落着にはできない。
甘利明前経済再生担当相事務所の口利きと現金授受問題で、東京地検特捜部が元秘書2人について最終的に容疑不十分で不起訴とした。
甘利氏の不起訴は既に確定しており、一連の捜査は終結した。
今年1月に発覚した疑惑は、典型的な口利きの構図だった。
道路工事の補償をめぐって都市再生機構(UR)と問題を抱えた建設会社側の依頼を受け、元秘書2人はUR側と何度も面談を重ね、補償交渉の口利きをした。補償額は上積みされ、甘利氏と元秘書は建設会社側担当者から計600万円を受け取ったというものだ。
甘利氏は1月下旬の閣僚辞任会見で「全容解明に至っていない。調査を進め公表する」と述べた。
その調査はどうなったのか。甘利氏は自らの不起訴を受けて6月に政務復帰したが、政治家としてのけじめのつけ方を国民が注視していることを肝に銘じるべきだろう。
気になるのは、甘利事務所が元秘書2人の不起訴を受けて出したコメントだ。「元秘書らが法に触れるようなことをすることはないと信じていた。安堵(あんど)した」と記している。
法治国家である以上、「法と証拠」に基づいて処罰の可否が判断されるのは当然だ。だが、法による線引き以前に、問われるのは政治家としての行動とその説明責任だ。
元秘書による執拗(しつよう)なUR側への接触、大臣室などでの自身を含めた現金授受、元秘書の多額の接待は、甘利氏も認める客観的事実だ。
国民は、こうしたカネに絡む政治家や秘書の活動に不信の目を向けている。「秘書がやったこと」という甘利氏の言い分も、丁寧な説明がなければ、多くの国民は額面通りに受け取れないだろう。
今回、あっせん利得処罰法の不備が改めて浮き彫りになった。
同法の適用には「国会議員の権限に基づく影響力の行使」を具体的に証明しなければならない。たとえば、国会で質問をすることをちらつかせることなどが典型例だ。
政治が介入しての典型的な口利きでありながら特捜部が甘利氏と元秘書2人を不起訴としたのは、そこまでの立証ができなかったからだ。
立法時、「権限に基づく影響力の行使」の要件について「大物政治家などが顔を利かせて働きかけても適用できない」と見直しを求める声が出た。だが、与党が応じなかった。
国会議員やその秘書にこの法律が適用された例がない現状に照らしても、実態はザル法だ。国民の政治不信を払拭(ふっしょく)するためにも、国会は早急に法を見直す必要がある。
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